「翻訳者って、資格がないとできないんじゃないの?」
これはよく聞かれる質問のひとつです。
実際、SNSやネットで調べてみても翻訳者になるためには「翻訳検定で合格する必要あり」「TOEIC900点以上必須」「専門分野がないと無理」などなど、少し不安になるような情報が目に入ってきます。
しかし、結論から言うと 翻訳者になるのに資格は必須ではありません。
もちろん、資格を持っていると有利になることはありますが、「資格がない=翻訳者になれない」わけではありません。
翻訳カレッジではこれまで、全くの未経験から翻訳者を目指す方のサポートに取り組んできましたが、資格なし・翻訳未経験でもお仕事を受けられるようになった方はたくさんいます。
そこで今回この記事では、
- 翻訳者になるために資格はあった方がいいのか?
- 資格なし、未経験からどうやって翻訳者を目指すのか?
- 具体的にどんなステップを踏めば良いのか?
など、これから翻訳者になりたい人が知っておくべきポイントを、ひとつひとつ丁寧に解説していきます。
翻訳者に資格は必要?本当のところを解説!
ではここから翻訳者にとって「資格」がどういった温度感で扱われているかお伝えしていきたいと思います。
記事をご覧いただくとわかってきますが、翻訳者は想像以上に実力と信頼が重視される世界です。
国家資格は存在しない。翻訳は“実力主義”の世界
まず最初に知っておいてほしいのは、日本では翻訳者になるための「国家資格」は存在しないということです。つまり、医師や弁護士のように「この資格がなければ仕事ができない」という職業ではありません。
そのため、逆を言えば「翻訳者」を名乗ることは誰にでも可能ということ。実際そんな人はあまりいませんが(汗
資格取得=プロ・専門家といった職業ではないため、業界では「資格よりも実力・成果物で判断される」傾向が強いのが特徴です。
とはいえ、有名な“検定”や“認定資格”もある
資格が無くても翻訳者になれるーーー。そう聞くと「資格が必要じゃないなら、全く無意味なの?」と思うかもしれません。実際のところ無意味というわけではないのです。
参考として翻訳業界でよく知られている資格を挙げておきましょう。
- JTFほんやく検定:日本翻訳連盟(JTF)が主催。
- 翻訳実務検定「TQE」:サンフレアーアカデミー主催。
- JTA公認 翻訳専門職資格試験:日本翻訳協会(JTA)が主催。
- TOEIC・英検など:英語力を示す資格。翻訳そのものの試験ではないが、実力試しになる。
- ATA(米国翻訳者協会):全米最大のプロ翻訳者及び通訳者が所属する。
これらは翻訳業界でも非常に有名な資格達です。これらの資格をとってから翻訳者になろうとする人もとても多いです。
こういった資格を取得するか、いいスコアを取っておく。そうすると仕事獲得に有利になることも実際あります。ただし、これらの資格なしでも翻訳者として働けるのは以下の理由からです。
「資格がある人」よりも「仕事を任せられる人」が選ばれる
これはどの業界でも同じだと思います。翻訳業界でも同じです。
翻訳者として働くためには、「翻訳会社」のトライアルに合格する必要があります。翻訳会社はこのトライアルに合格した翻訳者にお仕事を依頼するのが一般的な流れです。
これを踏まえると翻訳会社が知りたいのは「ちゃんとした訳文が納品される翻訳者かどうか?」ということがわかってきます。
つまり、資格よりも“実際にどんな訳文を納品できるか”その品質の方が重要視されるんですね。
そのため、たとえ資格を持っていなくても、
- ポートフォリオ(訳文サンプル)がしっかりしている
- トライアルに合格できる実力がある
- 丁寧な対応ができる
- 短縮納期にも対応できる
などができる翻訳者であれば、仕事を得ることは十分に可能です。実際に資格を持っていない翻訳者の方は意外に多く、TOEICを一度も受けたことがないという方もいらっしゃるほどです。
未経験から翻訳者になるための全ステップ
ではここからは未経験のゼロスタートで翻訳者になるためにはどうすればいいのかをお伝えしていきたいと思います。以外にも翻訳者になるためのステップは非常にシンプルです。
ステップ①:まずは「翻訳という仕事」を正しく知る
まず基礎知識として「翻訳」という業界を正確に知る必要があります。
翻訳には大きく分けて以下の3つのジャンルがあります。
- 実務翻訳:ビジネス書類、技術文書、マニュアルなど
- 出版翻訳:書籍や雑誌、エッセイ、ノンフィクションなど
- 映像翻訳:映画、ドラマ、ドキュメンタリーなど
自分の興味や将来像に合ったカテゴリを知ることが最初のステップです。
一般的には「実務翻訳(産業翻訳)」は需要が多く、専門性が活きる翻訳と言われています。出版翻訳や映像翻訳はやりたいと思う人が多いがゆえに競争が激しいジャンルと言われています。
競争が激しくても夢を追いたい、叶えたいという方は出版や映像翻訳へ。現実的に安定した仕事を得たいと考える方は実務(産業)翻訳へと進む傾向があります。なので自分が何を目的としているかを決めてジャンルを考えるとスムーズかもしれません。
スタート時点で「こんな翻訳者になりたい!」という思いがあれば方向性が固まりやすく、「何をすればいいか?」が明確になってくるので、まずは自分の将来像を考えるのがファーストステップと言えそうです。
ステップ②:基礎スキルを身につけて鍛える
翻訳者には大きく分けて3つの基礎能力が求められます。それが以下の3つです。
- 英語力:構文理解、語彙、正確な読解
- 日本語力:自然な表現、文法、簡潔さ
- 読解力:文脈や意図の理解力
この3つは基礎能力とされていて、それぞれにおいてレベルが高い方が当然良くなります。
英語力は一般的には「TOEIC800ほどはほしい」や「英検準1級」があると良いと言われています。ですが、実際こういった資格やスコアが無くても翻訳者として活動できるケースは多々あるということは前述の通りです。仮にスタート時点で英語力が低くても気にする必要はありません。
なぜなら翻訳に取り組む中で英語力は自然と伸びていくものだからです。
日本語力に関しては、甘く見られがちですがとても重要です。
この記事を読まれているほとんどの方が日本人でしょう。日本語ネイティブの方がなぜ日本語力を求められるのか?それは意外にも自然な表現・正しい文法を踏まえた上で「簡潔に」日本語化するのは日本人でも難しいことだからです。意外に思われるかもしれませんが、英文の理解よりも、その英文を上手に日本語化するのはプロの翻訳者でも悩むポイントだと言われているほどです。
最後の読解力は文脈や意図の理解力のことです。これは経験を積むしかないと言われている項目の一つです。これは色々な英文に触れていくことで理解力は高まっていきます。ここは練習あるのみです。
ステップ③:翻訳の実践トレーニングをする
翻訳は「筋トレ」と一緒です。
どんなに長い英文でもそれは「1行・1文の積み重ね」です。なので最初は簡単で短い英文からスタートすることがすごく重要で、徐々に慣らしながら長い英文に取り組んでいくとスムーズにスキルアップができるはず。
題材は選択する分野にもよりますが、
- ニュース記事(JAPAN TIMESなど)
- 海外の動画(TEDなど)
などで練習をするのがおすすめ。今はインターネットの時代ですから、少し検索することでたくさんの言語に触れることができます。
ここで意識しておきたいのが正解となる「翻訳文」があるものを選ぶことです。
初心者の内は「自分が作った訳文が正しいかわからない」という状態ですから、必ずワンセットとして考えておくと効率よく練習することができます。
そして最後に、翻訳のトレーニングにおいて最も重要なことは「量」をこなすことです。
マラソンも最初の一歩が大事ですし、1km、5km、10km、20km…と徐々に距離を伸ばしていくことで体が慣れていきますよね。翻訳においても全く同じことが言えます。過去さまざまな翻訳者の方にお話を伺ってきましたが、みなさん最初は「とにかく量をこなした」と語ってくれます。
取り組んでいる最中では「手当たり次第の練習で意味があるのか?」と疑心暗鬼になりがちですが、それでも間違いなく意味はあるということですね。
当然この量をこなす下積みから始まって、プロ翻訳者になるとそこからさらに多くの文章に触れることになります。結果的に翻訳に必要なさまざまなスキルが磨かれていくということ。なので翻訳歴何十年という方になると、その分スキルが高いということになり、仕事を得やすくなっていくというのがこの業界の特徴の一つだと思います。
トレーニングあるのみです。
ステップ④:プロの添削を受ける
トレーニングを積んだ後は「プロの添削を受ける」というステップを入れた方がいいです。
なぜそうした方がいいかというと、プロにはプロの視点があるということが一つ。独学トレーニングではなかなか気付けない部分をプロの指導を受けることで修正することができます。
また添削指導を受けずに進んでいくと仮に翻訳会社のトライアルを突破できたとしても、結果的に修正箇所が複数出てしまって翻訳会社から指導が入ったり、そのまま次から仕事の依頼が来なくなったり…ということが起こりやすくなります。なので複数回プロの添削を受けた方が結果的にスムーズになります。
例えば「申し送り書にはどの範囲でメモを残すべきか」「””の使い方は正しいのか」など些細なことでも確認できる講師がいた方がいいのは間違いありません。
いきなり本番環境に挑むか、事前に仮本番で練習するか。最終的には個人の好みかもしれませんが、プロに添削指導を受けておくこと。これは大きな意味を持っていると考えた方が無難でしょう。
ステップ⑤:トライアルを受ける
「トライアル」とは翻訳会社が用意している翻訳者が受けるテストです。
一般的に翻訳者は翻訳会社に登録をすることで、翻訳会社から依頼を受けて仕事をすることができます。翻訳会社は仕事を依頼しても大丈夫な翻訳者に登録許可を出したいと考えていますから、その判断基準として用意しているのがトライアルです。
このトライアルは合格率10%以下と言われており、プロとして活動している翻訳者でも落ちるケースがあるほどです。
そのため、翻訳者を目指す方の一番の壁がこのトライアルと言えるでしょう。
自分でもトレーニングを積んで、プロの指導も受けたらトライアルに挑戦する。これが翻訳者になる王道のルートと言われています。
また日本には翻訳会社は2500社ほどあると言われています。1回受けてダメだったとしても他の翻訳会社でチャレンジすればOKですし、期間をあけて再挑戦することも可能です。なので落ちたとしても気を落とさずに「次、別の会社でチャレンジしよう」と気持ちを楽に構えておくといいでしょう。
まとめ
翻訳者になるためには資格が必要かどうかというと答えはNOです。国家資格もありません。関連するTOEICなどの資格があれば有利だけど、資格は無くても翻訳者にはなれるということをお伝えしました。
そういった資格よりも仕事の正確さ、意図を汲み取る力、スピード、やりとりのスムーズさの方が重要。
資格そのものよりも「翻訳者としてどうスキルを高めるか?」に焦点を当ててトレーニングすることが翻訳者として求められている考え方です。
また、現在は英語に不安があっても諦める必要はありません。翻訳を繰り返していく内に自然と英語力は伸びていくものです。現時点と未来の間には努力する「時間」があります。ですから、現時点のスキルを見て決めずに「翻訳者になりたい気持ち」を重要視してほしいと考えています。